「平石の力があれば、あんな書き込みを消すことなんて簡単なことです。でも、そのためには奏多もいくらかの譲歩を迫られた」
「譲歩?」

蓮斗とのことは奏多に一切の責任はない。
責められるとすれば蓮斗。もしくは巻き込んでしまった私だろう。
それなのに、奏多が何の譲歩をするって言うんだろうか。

「今回の件はすべて平石家の方で対処する。その代わり平石社長の勧める縁談を受けること。それが条件でした」

ここで言う平石社長って言うのは奏多のお父様のことだと思う。
お父様がどこまで事情を把握しているかわからないけれど、お怒りなのは間違いないようだ。

「そして、奏多はその条件を飲みました。でなければあなたにまで火の粉が降りかかるかもしれないんですから」
「何でそんなことを」

人の噂なんて放っておけばすぐに消えるのに。

「あなたは平石奏多の置かれている立場が分かっていませんね」
呆れたように、課長が一つため息をついた。

「あいつは平石財閥の直系なんです。その分注目もされるし、足をすくいたいと思っている人間も少なくはない。それが分かっていたから学生時代から海外に逃げ出していた。きっとあのまま海外にいたいと思っていたはずです」
「ええ」

それは私にもわかる。
奏多はシンガポールに残りたいと言っていたもの。

「それでも、帰ってきた以上は完璧な姿を見せるしかない。だから、日本に帰ってきて副社長に就任して早々暴力沙汰の噂が立つのは困るんです。あいつもそのことを理解していたから、社長の条件を飲んだんでしょう」

ああ、なるほど。
結局悪いのは私ってことらしい。