「おはようございます。お呼びですか?」
電話から五分後には課長が登場。

「ああ、秘書達の勤務時間だが」
「副社長っ」
やはり私のことを言いたかったのかと、思わず声が出た。

「何だ、俺は雄平に話しがあるんだ」
「しかし・・・」

私のことを言うつもりなのは間違いない。
何とか止めないとと私は前へと進み出たが、奏多はやめてくれそうにない。

「一体何ですか?」
私と奏多を交互に見つめる課長。

こうなったら私には打つ手がない。

「秘書が勤務時間前に業務を行っていることについて雄平は把握しているのか?」
私が黙ったのを見て、奏多がもう一度口を開いた。

「勤務時間前って・・・」
チラッと課長が私の方を見る。

「違うんです。副社長がおいでになる十分ほど前に業務の準備をしていただけで」
「十分?」
ここぞとばかり奏多が突っ込んでくる。

「今日はたまたま三十分くらい前で・・・」

奏多のマンションが近いからいつもより早く着いた。金曜日お休みしたせいで溜まった仕事もあったから、せっかくだからと片づけた。ただそれだけなのに。

「こういう働き方は感心しない。課長として勤務時間を守るように指導してくれ」
「・・・わかりました」

田代課長は何も聞き返すことなく返事をして、副社長室を出ていった。
その後、奏多はいつも通り机に向かって仕事を始めた。


「ったく、もう」
不機嫌なのは私だけ。
副社長室に続く秘書室で悶々と過ごすしかなかった。