フィオナがその場に立っていると、ザクロはニコニコとさらに笑ってフィオナに近付いてくる。しかし、それは無言の圧力のように感じた。まるで他者を支配し、全てを手に入れる暴君である。

フィオナはかばんの中から財布を取り出し、一万円札をザクロに手渡す。フィオナは小説で得たお金も、特殊捜査チームのお給料も、学費以外には使わない。そのため、少し減っては溜まる一方なので困ることはない。

「一万円もありがとう!君が一番多くくれたよ」

ザクロは嬉しそうに目を輝かせ、素早くお金をポケットの中に突っ込む。そしてブツブツと言い始めた。

「実はさっき、何人かに声をかけたんだ。そしたらみんな千円ほどしかくれなかった。ちなみにエヴァンくんは五千円だったよ。でもキキョウくんな至っては「渡せるお金がない」と言ってきた!ここでは私が絶対的存在なのに……」

ザクロの顔から一気に笑顔が消え、苛立ちが現れ始める。フィオナは嫌な予感を感じ取り、「仕事がもう始まりますので」と言い傍を通り過ぎた。