劇団に向かって歩く途中、どこか不安げにエヴァンが呟く。基本前向きな彼がこんなことを言うのは珍しい。

「エヴァンならすぐに劇団の人と打ち解けられるわ。あなたは潜入するのが上手だもの」

フィオナはエヴァンの手をそっと包む。エヴァンは潜入調査が上手だと前から思っている。学校に潜入した際は少しドジで、でも生徒思いの先生を演じ、結婚式場に潜入した際には完璧な花婿を演じることができていた。フィオナはあまり人と打ち解けられていないため、エヴァンのコミュニケーション能力などを羨んでいるのだ。

「私ができるのは、与えられた仕事をこなすだけだから……」

仕事はできても、周りの人とうまく話せない。周りに馴染めないのはある意味問題だろう。俯いてしまったフィオナをエヴァンは見つめる。

石畳みの道を歩いていた二人の目の前に、豪華な看板が見えた。これから潜入する劇団の看板だ。その看板の隣には立派な劇場があり、劇団員と思われる人たちが出入りしている。