薫の仲間が10人応援に駆けつけた。

「姉さん、なんか苦戦してんじゃないすか?」

そう言ってバイクを降りて乱闘の渦中に歩いて入ってくる。重森は息を切らしながら

「来るなって言ったのに、さぁ、さっさと片付けるよ!」

「オッシャー!やるぞみんなぁ!」

応援に来た仲間達もそれに応える。さすが薫の仲間だけあって全員かなりの手練れだ。三倍くらいに開いた戦力差があっという間に逆転してしまった。どんどん敵が倒れていきおよそ十分後には敵は全員倒れていた。

「ハァ、ハァ、重森…ハァ、ハァ、勝ったな…ハァ」

重森も肩で息をしながら頷いた。片桐は戦局が悪化し小山内が向かってくるのを見て慌てて一人逃げたしていた。小山内は片桐を追いかけた。そして行き着いた先は片桐達の学校のグラウンドだった。

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…片桐…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…お前…ハァ…ハァ…ハァ…何でわからねーんだよ…ハァ…ハァ…」

「ハァ…ハァ…ハァ…お前が…ハァハァ悪い…ハァ…ハァ…」

「片桐…ハァ…ハァ…あの時俺は…ハァ…ハァ…お前を裏切ったんじゃ…ハァ…ねぇよ…ハァ…ハァ…お前は…間違ってる!ハァ…ハァ…」

「何がだよ…ハァ…ハァ…俺はずっと…ハァ…ハァ…お前の為に全力で…サポートしてきたじゃないか…ハァ…」


それは高校一年入学式、片桐はこの学年で一番頭角を現しそうな男を観察していた。中学時代それぞれが各学校で頭はってた札付きどもを事前にチェックしデータを集めていた結果、小山内清がおそらくここで一番出てくることを予想していた。入学して間もなくこの新入生による順位争奪戦は勃発した。片桐はすぐに小山内に近づき自分の情報収集能力を見せつけた。そして小山内はあまりの正確なデータ取りに感動する。小山内は片桐を認め軍師と呼ぶようになる。これが片桐にとってどれほど大きな意味を持つか、言った当の小山内には到底理解出来なかった。
片桐の家系はエリート家族。片桐には二つ上の兄がいる。常に勉強はトップで親からは兄ばかりが期待の目を向けられ、片桐はそれを不服に思っていた。片桐の性格はプライドが高く認証欲求が強い。当然認めてもらえないことによるフラストレーションが溜まり道をそれていく。だからこそ小山内の片桐に対する言葉は片桐にとって今までのフラストレーションを解消してくれるのに大きく貢献することになった。それから片桐は小山内を自分の頭脳で学年のトップにのぼらせる。そしてその後、他校から小山内の噂を聞きつけ攻めてくる輩をも片桐の策略でどんどん蹴散らすことに成功する。成功すればするほど小山内は絶大な信頼を片桐に寄せ、片桐もまたかつて無い程の喜びを実感していく。そしてある時小山内と片桐が決別する事件へと発展していく。小山内は自分の力を誇示するために拳を奮うタイプではなかった。あくまでも相手が自分に危害を加えてこない限り、そして仲間を傷つけられない限りは小山内から喧嘩を仕掛けることは絶対になかった。しかし片桐にとっては常に小山内に勝ちをもたらせなければ自分の存在価値がなくなる…片桐にとって小山内は少し物足りないものを感じるようになる。そして片桐は他校の橋本達也に小山内が攻めこむという噂が伝わるように策を練った。その作戦は上手くいき橋本達也が激怒し小山内の元へ攻めてきた。小山内は何も知らず片桐からまるで相手から攻めてきたと思わせるように言いくるめられた。当然小山内は橋本達也達に迎撃態勢で応戦する。そして準備万端の橋本達に仲間を何人も傷つけられてしまう。激怒した小山内は鬼神のごとく敵をなぎ倒し橋本も小山内の下に倒れることになった。そして橋本の口から思わぬ言葉を聞くことになる。

「小山内…てめぇ…絶対許さねぇぞ…俺の相棒を袋にしてくれた恨み…いつか必ず晴らすからな…」

小山内は橋本が何を言ってるのか全く心当たりが無い。そしてこの事件の真相を知ることになる。小山内は裏切り行為を絶対に許さない。そして片桐は居場所をなくし転校することになる。

「片桐…俺はお前のことを心底信頼してたんだ…お前のお陰で今の俺があるんだ…お前が居なきゃ俺はこんなに仲間が居なかったかも知れねぇ…でもな…お前はその仲間をお前自身が傷つけたんだよ…お前一人の自分勝手なワガママでな…」

重森と俺は小山内達の後を追ってきた。重森の仲間が小山内の行動をちゃんと偵察していてくれたからすぐに居場所はわかった。重森の仲間の連携はまるで訓練されたかのように統率が取れている。これが重森の情報収集能力なのだ。俺達は小山内と片桐のにらみ合いを見守る。

「小山内…お前には俺の気持ちは理解出来ねぇよ…お前みたいな恵まれた奴には俺のコンプレックスは理解出来ねーんだよ…俺はお前にずっと認めてもらいたかったんだ…お前が俺を軍師と呼んでくれて…みんなも俺に一目置いてくれるようになって、でもお前はてっぺん取ったら欲を失くして俺の頭脳を必要としなくなって…だから、俺は…俺は…また必要とされたかったんだ…お前の役に立ちたかったんだよ…

「片桐…俺は今でもお前を必要としてるよ…やっぱ俺の横にはお前が居ないとダメなんだよ…俺、頭悪いからよ…お前が俺の頭脳になってくれなきゃ俺何も出来ねーんだよ…」

片桐は小山内の言葉に涙がこぼれた。

「なぁ片桐…戻って来いよ…また一緒に楽しくやろうぜ…」

「小山内…もう無理だよ…お前の側近みんな潰しちまった…お前が受け入れてくれてもアイツらにはもう会わせる顔がねぇよ…」

その時小山内は大きく息を吸ってでっかい声で

「そんなの俺がお前の代わりにいくらでも頭下げてやるわ!!」

それは片桐の心に強く突き刺さり後悔の念から号泣してしまう。

「小山内…俺は…俺は…ただ認めて欲しくて…必要とされたくて…すまん…小山内…」

片桐は地面に膝をつき涙をボロボロ落とし地を濡らす…薫は

「たかと…あれが本当の男なんだよ…海のように広く、いつでも仲間を大きな愛で包んでやる器…ただ強いだけじゃ誰からも本当の信頼なんて得られやしないのさ。時には敵にだって寛大さを見せることも必要なのさ。小山内はほんとバカだけど、本能的に一番大事なものを理解してるのさ。たかとも…男になりなよ…」

俺は最初に重森が言った言葉の意味を今理解出来た。男の生きざま、本物の器…上に立つものの資質…俺は小山内のことをわかっていたつもりだったが…重森にここまで言わせるほどの男とは思っていなかった。だって…バカだもん…そして小山内が何かを思い出したかのように片桐に向かって

「割ったガラスの掃除は頼むぞ!」

居合わせた一同全員コケる…俺が

「そこぉ?」

普通、掃除よりも割ったガラス代請求するところだろ?
薫が

「器が大きすぎてあちこち穴空いてんだよなぁ~、アイツ…」

小山内…すまねぇ…俺もやっぱりお前じゃなきゃダメだったんだ…お前のもとを去り橋本とつるんでたけどやっぱり全然物足りなかった…いつも満たされずお前との楽しかった思い出ばかり思い出して、戻りたいけど戻れないもどかしさで…それが逆にお前に対しての恨みの感情が増幅していって自分を見失ってた…ほんとはお前と居るだけで幸せだったのに…お前はいつも仲間を優先してきたのに…俺は俺のことばかり考えてたんだな…

「小山内…ありがとな…俺、お前のお陰で目が覚めたわ。やっぱお前のところには戻れないけどよ…でもすげぇ嬉しかったわ…お前の…気持ち…」

「片桐…」

「橋本はお前ほどじゃないけど良いやつなんだよ…お前ほどじゃないけど…やっぱ仲間のこと大切にするやつでな…俺は橋本を裏切ることは出来ねぇよ…お前を裏切り、更に橋本まで見捨てたら…俺…とことんクズになり下がっちまうからよ…俺もお前らみたいにいつか本当に仲間を守れる男になりてぇんだわ…悪ぃな…それに…離れているから見えるものもあるんだよ」

「そっか、片桐…病院一緒に見舞うか?」

「…あぁ、ちゃんと謝るよ…許してもらえないだろうけど…」

「片桐…アイツらだってお前のことをわかってくれるさ」

片桐は言葉が出ない…確かに小山内の仲間達は誰にも負けない強い絆で繋がっていた。それは全てこの男の器が結束を強めていたからだ。そして、小山内の言うとおり…アイツらはきっと俺を許してくれるだろう…それはみんな小山内に憧れてついてきた男達たがらその器を継承してる…ちゃんと…謝るよ…いつかお前達に償うつもりだ…
俺達は倒れている仲間の元へと戻った。動けるやつはそれぞれの仲間を肩に担いだりおんぶして俺達を待っている。橋本も座り込んでいた。片桐が

「橋本~、俺達は完敗だ…やっぱアイツらにはかなわねぇなぁ…」

そう言って片桐が橋本に手を差し出し立たせた。

「片桐…お前の中の決着はついたのか?」

橋本がそう言った。片桐は動揺している。

「片桐…お前…戻りてぇんだろ?小山内の所へ…行っても良いぞ…」

「橋本…お前…」

「わかってたんだよ…いつもお前が小山内の話ばかりするからよ…だからお前の心の決着つけに俺も付き合ってやりたかったんだよ」

片桐は大きすぎる男達に脱帽した。男になりてぇ…本物の男になりてぇ…いつかこいつら超える男に…片桐は目に溜まった涙がこぼれる前に手で拭って

「橋本…俺はお前の参謀だ!地獄の底までお前と一緒だ!」

そう言って小山内の方を振り向きコクッと頷いた。小山内もそれに応え頷く。

「橋本…次はもっと強い絆でみんなをまとめて今度こそ小山内の器を超えるぞ!」

橋本はニヤッと笑って小山内に

「小山内…お前、俺のこと愛も何も無いって言ったけどな…俺は俺のやり方で仲間を想ってんだよ!」

小山内が

「橋本…片桐を頼んだぞ…」

「任せとけ!お前と一緒にいた時間よりも良い夢みさせてやるよ!」

そう言って小山内と橋本はお互い顔の前で手をガシッと繋いだ。

「じゃあな…」

小山内が橋本に向かって言った。

「おう…またな…」

橋本も応える。全員が解散して帰る途中、

「そういや、この戦争の発端の当事者って…どこにいるんだ?」

俺が小山内に尋ねる。

「あいつかぁ?んー…」

そのとき駅で若い女性をナンパしてる原の姿が目に入ってきた。

「はぁーらぁー、てめぇ~!」

そう言って小山内は原に向かって全力で走っていった。原は小山内の鬼の形相を見て慌てて逃げ出す。

「きよちゃんごめーん!どうしたの?その顔ぉ~」

原は必死に走りながら血を流してる小山内の顔を見て聞いた。

「お前が引き起こした戦争なのに何でお前はのうのうとナンパしてんだコラァ!俺にもそのナンパ術伝授しろぉ~!」

薫がそれを見て

「たかと…やっぱあいつは男の中の男だな…結局頭の中は女かよ…」

重森…恐いぞ…その顔…
薫は恐ろしい形相で小山内の裏切りを見ている。俺はこの後の小山内の悲劇を想像し、心の中で手を合わせていた。

その日の夕方、小山内と片桐は病院で仲間達を見舞いに行った。