可愛い。
愛おしい。あなたの暑がっているその表情、その声の質感、あなたに流れる水滴、水滴に混じっている汗、頬にぽつんとある小さなにきび、手、眼、睫毛。
この瞬間に私の目に映る全てのあなたが、愛おしくて、触れたくてたまらない。私の横に置いているその左手に私の右手を重ねてみようか。それが簡単に出来たらどんなに幸せか。
胸があなたへの愛おしさで溢れて今にも張り裂けてしまいそうなくらい愛おしい。
あぁ、好きだ。


「夏夜、どうしたの?」
はっと、今心内で想っていたあなたへの思いに蓋をする。
「夏夜ってよくぼーっとするよね笑 何考えてるの?」
ん?っと首を傾げて光できらきらしている目をこちらに向けている。切実に辞めてくれ、そんな表情、可愛すぎて発狂してしまう。
そんなことは置いといて、あなたに私の心内を明かすことでとんでもないことになる。恐らく、あなたに気持ち悪いとその場を去られ、その後私が歩く道に咲いている植物は全て枯れ、天と地を私がひっくりかえしてしまう。
そんな事態は絶対に避けたい。いや、もしも天と地がひっくりかえるようなことがあっても、春翔に嫌われることだけは絶対にあってはならない。

「それ、よく言われる。まあ、色々とね」
「へえー、そうなんだ」
「うん」
「夏夜ってさ、そのー、そういう時にさ、例えば、、好きな人のこととか考えたりするの...?」

..............................は?え。?え?
「あっ、えっとー、どうだろ、えー、わっかん、ない うん、」
「ふーん...」


え?今なんと?なんか流れで適当に返しちゃったけど返しはこれで良かったのか?え?ついに気付かぬ間に天と地がひっくり返ってしまったのか?ていうか春翔がこんな話してくるの初めてなんだけど、、。
うん、来年から今日は祝日だな。
ここが夏祭りの会場であったならば、私の背景には大きな花火にピンクにハート型の花火が次々と打ち上がっていることだろう。


10秒ほどの沈黙が続いた後、私が
「暑いね」
と口を開いた。
「そうだね」
春翔も口を開いた。
気のせいか、さっきより蝉の鳴き声が大きくはっきりとなったように聞こえる。
「ねえ夏夜、コンビニにアイスでも買いに行かない?」
春翔が沈黙を破った。
「あ、うん 行こうか。」