その男の人が、ベンチの背もたれから私の肩のすぐ後ろに手を回すから、全身が固まったように凍りついた。
声を出すことも、息をすることさえ忘れてしまう位に動くことが出来ない。



"何かあったとき怖くて声が出ないって言うだろ"前にイブが言っていた事を思い出す。


周りは外灯の電気は少なくて静かだけど、団地内で家が沢山あることにほっと胸を下ろす。
叫べば、きっとすぐに助けて貰えるよね。



震える手で鞄のチャックを開けて、ゆっくりと中に手を入れた。こんなことなら、鞄に直接つけておけば良かった。


手が寒さと緊張と恐怖で上手く動かない。手探りで防犯ブザーを見つけ出すことが出来たと思ったところで、腕を強く掴まれた。



「……いっ」

「何ですか、これ?」


決して体格のいい人ではない。どちらかというと細身で弱そうなのに、男の人の力ってこんな強いものなんだ。