お母さんがバス停で待っている、早く行かなきゃ心配かけちゃう。次にバスが停車したところで急いで外に降りた。

寒いな。外の空気は冷たくて、両手をこ擦り合わせながら白い息が漏れる。


さっきの人も同じバス停で降りたみたいで、すぐ後ろからバスの階段を降りてきた。



「バス停過ぎちゃいましたね。どうするんですか?」

「え、あの、戻るんで大丈夫です」


その男の人がバス停のベンチのすぐ隣に腰かけるから、急に不安に襲われる。

何で私の降りるバス停が過ぎたって分かったんだろうか。


急いでスマホを取り出して、画面をタップしようとしたところで気が付いた。
真っ暗なまま画面が切り替わらない。

バスで落とした衝撃で電源が落ちちゃったのな。電源ボタンを長押ししても全然つかなくて、焦る気持ちだけが先走る。



「どうかしたんですか?」

「いえ、な、んでもありません」

「さっきから、ふらふらしてるけど、具合悪いんですか?」

「だ、大丈夫です」




ーーあの、降りないんですか?


そうだ、この声。
この人、前にもバスの中で声をかけてきた人だ。






「家政科の、大井芽生さんですよね」