フィオナが俯きそうになると、エヴァンが近付いてくる。そしてフィオナの頬に触れ、「愛してる」と頬を赤く染めて言った。

「愛……?」

フィオナは首を傾げる。何故、このタイミングでエヴァンはそんな台詞を言うんだろう。ただ潜入するための偽物のカップルだというのに……。

「キャ〜!フィオナちゃん愛されてる!ピーター、愛してるわ」

アイビーが頬を赤く染めて喜び、背伸びをしてピーターにキスをする。ピーターも「俺も愛してる」と返し、パッと見たら二人は愛し合う普通のカップルに見えるだろう。

ピーターが嘘で「愛してる」と言っているのを聞いた時、フィオナの胸が痛みを覚えた。その痛みはエヴァンを見つめていても起きる。エヴァンが先ほど言ってくれた「愛してる」の言葉を思い出すたびに、フィオナは何故か胸が苦しくなってしまうのだ。

「どうして……」

今度は口から言葉が出てしまう。しかし、フィオナのその戸惑いは誰にも触れられることはなく、カリンがエヴァンにもタキシードを着るように言い、エヴァンは試着室へと入っていった。