妻の鉛筆を握る手が震えだす直前に、俺は紗那に声をかけるようにしていた。
パニック障害と診断された妻は、今も体調を崩しやすい。

俺の方を見る紗那はすでに真っ青な顔をしていて、少し手が震え始めていた。

もう少し早く声をかければよかったと後悔しながら、俺は運んできた紅茶を紗那の前に置く。

「休憩しよう」
紗那は俺の言葉の意味をよく知っている。
「うん」
自分が前に突っ走りすぎないように、俺がセーブしていることを。

だからこそ、俺が声をかけると、一度開いていた資料をしまって、図面を書いていた手をとめる。

「深呼吸」
「うん」
大きく深呼吸をして、紅茶を口に運ぶ。