俺は視力はいいほうだ。
厨房からでも妻の手元が見える。

真剣な表情で図面と向き合っている妻は、企業の建築デザインだけでなく、最近一般家庭のデザインもはじめた。
体調を崩して、仕事をやめた妻は最近になり仕事を再開したばかりで、何かと俺は心配だった。
だからこそ、俺の店の一角を少し改造して妻が仕事ができるようにした。

見えない場所で妻が一人でつらい思いをするのは嫌だ。

12年以上前、妻が俺を決死の覚悟で背中を押して送り出してくれたことへの感謝をかえす時でもあると思っている。
体調を崩して、心のバランスも崩している妻をそばで支えて、もう一度胸を張って進めるように応援したい。俺の場合は背中を押すことじゃなく、隣で並んで支えたいというのが本音だ。

「紗那」
頃合いを見て俺は妻の元へ温かい紅茶を淹れて運ぶ。