「お嬢様、起きてください」
優しい一定のトーンで声をかけるスーツ姿の男。
「お嬢様」
でも、声をかけられている本人は何度も何度も声をかけても布団の中で動かない。
「お嬢様」
まるで少しずつボリュームの上がっていく目覚まし時計のように音量が徐々に上がっていく。

「お嬢様」
数分、数えきれないくらい声をかけ続けたスーツの男はふと腕時計を見る。
それから小さくため息をつき、胸いっぱいに息を吸い込む。
「咲っ!」
その声で、布団の中から何かが飛び出す。

「きゃっ!?」
勢いが付きすぎて、ベッドから落ちそうになるのは、宮ノ内グループの令嬢、宮ノ内咲。
「いい加減起きろ」
さっきまでの優しいトーンからは想像がつかないほど、乱暴に咲をキャッチして冷たい視線を送るのは秘書兼護衛係の宗川玲。