母が病気になってから、少しは一緒に過ごす時間が増えた。
でも病気の母に負担はかけられない。わがままを知らない俺は、ただただ我慢した。

本当は母が死んでしまうと悟って怖かった。
そばを離れるのが怖くて仕方なかった。
もしかしたら、離れた瞬間死んでしまうのではないかと思って怖かった。
目を離せなかった。

どんどんと痩せていく母。

父には怒りすら感じることがあった。
母ののこされた時間は短いのだろうと知っている俺。
なのに、父は病院に入りびたりで、母との時間をもっと作ればいいのに、他人の体の心配ばかり・・・。

そして、母は亡くなった。
本当はもっと甘えたかった。抱きしめてほしかった。今までできなかったこと、一緒にやりたいことがたくさんあった。

父を怒りたかった。なんでもっと母と一緒にいてくれなかったのかと。

でも、そうしなかったのは・・・自分の心を守るためだ。
一度、自分の感情を口にしたらきっと戻れなくなる。あふれ出して自分でも止められなくなるとわかっていたから。


自分の心を守るために、間違った術を覚えて生きて来た俺が出会ったのは・・・
強がりで、いつだって人との距離を一定に保とうとする、まるで俺のような彼女だった。