胸の中で眠る彼女の体を少しでも離れないようにと、何度も何度も抱き寄せる。
これ以上距離を埋められないくらい。

愛して、愛して、愛して、どうしようもない彼女を胸の中に抱き寄せて、大きく深呼吸をする。

こんなにも穏やかな気持ちも、あたたかい気持ちも、俺は生まれて初めて感じていた。



幼いころ、両親はかなり忙しい人たちだった。
学校行事にも時々、一瞬だけ参加してくれることはあっても、最初から最後までいてくれたことはない。

いつの日からか、いなくなってしまった時の悲しみや来てくれていなかったという何とも言えない脱力感を感じたくなくて、自分の中で予防線を張ることにした。

はじめから気にしていないふりをして、はじめから来ないものだと思って、諦めることで自分の心を守ろうとする術を覚えたのだ。