初めて言葉を交わした日、ジローくんのお母様が、

「もう遅いから、送っていきなさいよ!」

と背中を押し、彼は照れたように、

「じゃあ、行こうか」 

と言った。


その日以降、ジローくんは、私を毎日、部屋まで送ってくれるように。

夢にひたむきで、モテそうな見た目とは裏腹にシャイな人で…そんな純粋なジローくんと話しながらの帰り道は、甘酸っぱいひとときだった。

ジローくんといると、うまくいかなくなった恋のことを忘れられ、しかしながら、部屋でひとりになると、忘れようとしている罪悪感に苛まれてしまう。

しかし、もう地元の彼とこれ以上、形式だけの付き合いをしていても、心が全く通わないようでは、なんの意味もない。

それに、酷いかもしれないけれど…どんどんジローくんへと傾いていく心を止めることはできなかった。

もう別れなければ…と、何度も電話しても、やはり、彼は出ることも、折り返すこともなかった。