仕事に身が入らないのは、初めてだったかもしれない。

ずっと、やりたかった仕事なのだから。

定時に図書館を出ても、まだ予定の時間まで余裕があった。



ジローくんの心がまるで読めないことも、初めてだった。

自分の部屋で、うだうだしてから着替えて、予定の時間にジローくんの実家の店に向かう。

いつもと違い、他に誰もいない店内は薄暗く、たくさんのキャンドルが灯されていた。

「いらっしゃいませ」

照れたように、シェフ姿のジローくんが言う。

「今宵のお客様は、貴女だけです。僕の料理を召し上がってくれますか?」

黙ってうなずいた。