今宵も甘く咲く ~愛蜜の贄人形~

秋晴れの蒼穹が車窓越しに流れてく。ガラスを少しだけ下げ、生き物みたいにうねる風を感じた。普段見ない景色が少しずつ自分の中を塗り替えていくよう。

「海・・・!」

クリスマスに連れて来られた湾岸エリア。あの時は日も暮れてたし、ホテルからの帰りは半分正気じゃなかったから。

藍色、灰色。映る角度によって色合いの違う、広大な水面(すいめん)を飽きもせずに目で追い続ける。

「おーい、スズ。俺がほったらかしになってるぞー」

棒読みの科白に隣りを見やると、片手ハンドルの運転手が詰まらなそうに欠伸までして見せた。

「あとで海浜公園に寄ってやるから我慢しろよ。ほら、手ェ貸せ」

空いてる方であたしの手と恋人繋ぎをする時雨。

・・・もう躰の隅々まで知られているのに、そう言えば手を繋ぐのは初めてだった。不思議な感覚。何だか新鮮で。