人形堂の“仕事”はあったり無かったり。目隠しをされて、いつも頭がぼんやりしている間に済んでいるから実感はないのだけど。たぶん。なにも変わっていないと感じさせてくれているのは叶であり、時雨なのだ。
あれから一週間経った。叶は『急ぐつもりは無いよ』と薄く微笑み、いつも通り。毎日抱かれているし、彼を愛おしく想う気持ちに違いもない。
ただ答えは未だに自分でも良く解らなかった。目の前の横断歩道は青信号で。途中に危険な障害物がある訳でもなく、渡りきった向こう側に待っているのは、普通は誰でも夢見る幸せなのに。
紙宝堂の仕事をしながら、叶に見えない場所で溜息を繰り返す。珍しく、時雨が陽も昇りかけの午前中に顔を出したのはそんな折りだった。
「あぁなるほどな」
奥の方の書棚を整理していたら現れた彼。ひとの顔を見るなりその一言で、あたしは訝しげに目線を傾げる。
「・・・なあに?」
「いや?スズに外の空気、吸わせてやれって叶が言うから、どんなかと思ったんだよ。半分死にかけの金魚ってトコか」
「なにそれ」
余計なお世話ですけど?
「たまには違う水槽で泳いでみろって話だ。・・・いいから出掛ける支度しな。今日は俺に付き合え」
時雨は面白そうに口許を緩めたのだった。
あれから一週間経った。叶は『急ぐつもりは無いよ』と薄く微笑み、いつも通り。毎日抱かれているし、彼を愛おしく想う気持ちに違いもない。
ただ答えは未だに自分でも良く解らなかった。目の前の横断歩道は青信号で。途中に危険な障害物がある訳でもなく、渡りきった向こう側に待っているのは、普通は誰でも夢見る幸せなのに。
紙宝堂の仕事をしながら、叶に見えない場所で溜息を繰り返す。珍しく、時雨が陽も昇りかけの午前中に顔を出したのはそんな折りだった。
「あぁなるほどな」
奥の方の書棚を整理していたら現れた彼。ひとの顔を見るなりその一言で、あたしは訝しげに目線を傾げる。
「・・・なあに?」
「いや?スズに外の空気、吸わせてやれって叶が言うから、どんなかと思ったんだよ。半分死にかけの金魚ってトコか」
「なにそれ」
余計なお世話ですけど?
「たまには違う水槽で泳いでみろって話だ。・・・いいから出掛ける支度しな。今日は俺に付き合え」
時雨は面白そうに口許を緩めたのだった。



