「・・・じゃあさ、先輩のタイプってどんな人なの?」
「何、藪から棒に」
成瀬くんは「気になっただけ。ほら、言ってみてよ」と返事を急かしてくる。
珍しく私のペースで転がされていると優越感に浸っていたのに、ものの数秒で立場が逆転したような気がした。
このままではいつものように話の主導権を握られる、そう思った私は手元にあった小説に視線を落として読むフリをする。
「私のタイプ聞いても誰も興味ないでしょ。言うだけ損じゃん」
「俺が興味ありまーす。ね、教えてよ」
ぴーちゃん先輩の好み、と♡を語尾につけたかのような撫で声にぞわりと背筋が震えた。
負けないと云わんばかりに口を噤む私に対して、にこりとその甘い顔立ちを最大限に生かしてくる。いくら顔がイケメンでも、今のこの顔は苦手だ。
「早く教えてくれないと、その小説のネタバレ言っちゃうよ」
「え、これもう読んだの?一昨日発売されたばかりの小説だよ?!」
「だってぴーちゃん先輩、この作者のファンでしょ?」
そして彼が指差したのは私が手に持つ小説。中学生の頃からこの作者のファンで、一昨日が待ちわびていた新刊の発売日だったのだ。
昨日から半分まで読み進めてきたのだが、なぜだか図書室に来てから全然頭に入ってこないけれど。



