【完】それは確かにはちみつの味だった。


「どうして彼女作らないの?」
「じゃあ先輩は常に彼氏が欲しいって思ってるの?」
「思ってないけどさ」
「ソーイウコト」

 続いて彼は「それに好きな人じゃない人に好きになられても困る」と言って、いちごオレのパックを潰しながら飲み干した。

 男の子ならば皆彼女が欲しいものだと思っていたが、どうやらそれは私が勝手に思い込んでいただけだったらしい。

(でも、それって───)

 とある1つの可能性が、頭の中に浮かんできた。

 それをわざわざ問い詰めるほど野暮ではないが、その言い分から察すると成瀬くんは現在進行形で“好きな人”がいるらしい。

 確かにそれならば告白を受けないのも、隣のクラスにいる学年で一番可愛いと噂される山田さんを振ったのも、全て合点が行く。

(なるほど、成瀬くんは好きな人がいるんだ・・・)

 確かに彼にだって彼女を選ぶ権利がある。若いねぇ、青春だねぇ、甘酸っぱいねぇ、とおじさんのように心の中で呟いた。

 一瞬胸が締め付けられたような気がけれど、きっと成瀬くんが飲んでいたいちごオレの匂いが甘い所為だ。見ているだけで胸焼けしそう。

「きっと成瀬くんに好きになってもらった子は幸せだろうね」
「どうしてそう思うの?」
「だってつまらない話でも最後まで聞いてくれるし、あと人の好き嫌いをちゃんと覚えてくれてるし」

 私たちは図書室で時には読書をして、時には世間話に花を咲かせている。

 後々考えたら自分でもつまらなかったと思う話をした時も、成瀬くんは口を挟むこともなく最後までちゃんと聞いてくれるのだ。

 そして何より気が利く彼は甘いものが苦手な私にはいつも無糖のカフェオレを用意してくれる。少し寒いと感じた時はすでに暖房の温度を上げてくれていたり、本が高い場所にあって届かない時もさりげなく取ってくれる。

 先輩に対してあだ名で呼んでタメ口で話してくるけれど、何だかんだ優しいし、意外と良いやつなのだ。

 そう言って、指を折りながら成瀬くんの良いところを上げていく。