【完】それは確かにはちみつの味だった。



 生まれながらに神にひいきされたこの男は、とにかく学年問わず女子から絶大な人気を博しているのだ。

 それに比べて平凡すぎる私が彼に“ぴーちゃん先輩”なんてあだ名で呼ばれている事実が学校中に知れ渡った翌日には、きっと血祭りに上げられるだろう。

 現実でも物語の中でも女の嫉妬とは恐ろしいものである。残り少ない高校生活、最後まで穏便で安全な日々を過ごしたい。

「せっかくイケメンに生まれたのにさ、華の高校生活棒に振っちゃうよ」
「今のところ充実しているから大丈夫だって」

 最近は特にもうすぐ卒業だからと彼に告白しては玉砕する同級生を見掛ける事も少なくない。全員当たって砕けろ状態だ。

 成瀬くんならばよりどりみどりだろう。ぼそりと「彼女の一人やふたり、簡単でしょうに」と口にする。

 とはいえ、私だって本を読んでばかりで少女漫画やドラマのようなキラキラした高校生活は送っていない。
 しかしそれは私がこの世界線のモブキャラだから成り立つ話であって、主人公適性のある彼はまた状況が違うとそう私は思っている。