【完】それは確かにはちみつの味だった。


「今この時間も、君に告白しようとしてる女子が血眼になって探してるかもよ」

 まさか毎日のように図書室で過ごしているだなんて、誰も思いもしないだろう。

 今まで誰にもバレずに来ていた成瀬くんは忍者の素質があるかもしれない。彼の居場所を教えたら儲かりそうだけど、図書室が騒がしくなるのは嫌だから黙っているのが先決だ。

 彼だって一人になりたくて此処に来ているわけだから、わざわざ嫌な思いをさせようとは思わない。

「先輩の意地悪。そんなに俺と一緒に居たくないの?」

 そして「何か不満でもあるわけ」と口を尖らせる。

 不満はひとつもない。大声で喋る訳でもないし、静かにしてくれるし、読書中は絶対に邪魔をしてこない。
 委員会の仕事中に時々邪魔をしてくることもあるけれど、たまに手伝ってくれることもあるから、基本好きにさせている。

「・・・そう言うわけじゃないけどさ」
「ならいいじゃん」

 告白されてもどうせ振ることしかできないしね、とけろっとした顔で言う。

 少々ひどいことを言っているようにも聞こえるが、これでも彼はかなりモテる分類なのだ。

 身長もそこそこあって、ふわりと風で揺れるはちみつ色の柔らかそうな髪。そして極め付けはそのはちみつ色の髪のごとくその甘い顔立ち。もちろん性格も頭の良さも運動神経も申し分なし。

 天は彼に二物どころか三物も四物も与えた。