「せっかくの放課後なんだから、クラスの友達と遊びに行けばいいのに」

 座ったのは図書室の一番窓際にある4人掛けのテーブル席。この時間だと西陽がよく射し込んできて、まだ冬の季節だけどカーディガンを羽織るだけで十分温かい。
 
 ここが2人のいつもの定位置だった。

 さっそくストローを紙パックに刺して口に含むと、ミルク感たっぷりのカフェオレが喉を潤してく。

 学校の売店に100円で売っているこのカフェオレが飲めるのもあと1カ月である。そう思うとより味わいたくなって、舌の上で液体を転がしていた。

 ご機嫌にカフェオレに舌鼓を打っている間、何が面白いのかずっと私の様子を黙って見ているこの男。

 彼の名は成瀬春という。

「きっと成瀬くんが誘ったら、みんな喜んで行ってくれると思うけど」
「だって、ここでぴーちゃん先輩と過ごせるのもあともうちょっとだし」

 私のことを“ぴーちゃん先輩”と年上を敬う気がさらさらない彼は、ひとつ学年が下の高校2年生だ。

 ちなみに図書委員でも何でもない。ただの図書室にふらっと姿を見せては昼寝をしたり本を読んだりと自由気ままに過ごしている男子生徒である。

 初めて声を掛けられた時に私の名札を見た彼が「ひよこ」みたいだねと笑い、そこから面白半分で“ぴーちゃん先輩”と呼ぶようになった。

 可愛すぎて私に似つかないあだ名に何度かどうにかならないかと打診してみたが、うまく行った試しはない。

 他の生徒や先生の前ではそう呼ばない約束だけは取り付けることができた。案外簡単にに彼が「そんなつもりはないよ」と素直に従ってくれたことは今でも覚えている。 

「でもさ、私と過ごしたところで何の面白みもないでしょ」
 
 絶対友達と遊びに行った方が楽しいよ。

 そう言うと、彼は否定するように首をふるふると横に振った。

 そして「一緒に本を読む時間、わりと好きだから」と言っては笑みを浮かべるのだ。

 彼は時々、このように変なことを言う。