【完】それは確かにはちみつの味だった。




「・・・ねぇ、やっぱり卒業やめない?」

 しばらく時間も気にせずに、ただ黙って抱きしめ合っていた。

 伝わってくる心地よい体温に少し眠気を感じてきた時、成瀬くんはぽつりとそう呟いく。

「もう一回3年生するのはどう? 一緒のクラスになれるかもしれないし、受験勉強も此処でしようよ」
「流石に非現実すぎると思うよ」

 だって先輩がいないのに学校行く意味なくない?と不貞腐れて駄々をこねはじめだが、一向に抱きしめる腕を離してくれる様子はないようだ。

 確かに魅力的なお誘いだが、こればかりはどうすることも出来ない。

 だから「大学まで追いかけてきてよ」と恋愛初心者なりに甘えてみた。

 すると成瀬くんはけろっとした顔で口を開く。


「最初からそのつもりに決まってるじゃん」
「え、そうなの?嬉しいけど、同じ大学目指してるって知らなかった」


 すると「何のために男女共学の大学をお勧めしたと思ってるの」と抱きしめる力を一層強めてきた。息が苦しいと文句を言いながらと彼の過去の行動を思い返す。

 持っていたはずの女子大のパンフレットが無いなとは思っていたが、彼から「先輩はここが合ってると思うよ」とパンフレットと募集要項を貰った時に差し替えるような形で回収されていた気がする。

 これ処分しとくからと楽しそうにゴミ箱に直行していた気がするようなしないような。

 全て終わったことだから気にしないことにする。その方が良いだろう。

 つまり、私はまんまと彼の策にハマっていたのだ。最初から自分も行くつもりで私の志望校を同じ大学に変えさせるように、そう促した成瀬くんはなかなかのくせ者である。