「・・・う、わぁ」
「なに? 自分から抱きついてきたくせにその顔」
結果、彼は照れなど1つも見せなかった。固まって言葉に詰まる私の顔に文句を言っているが、それはこちらのセリフだ。
「顔も雰囲気も何もかも甘ったるすぎて逃げたい」
見上げてすぐ側にあった成瀬くんの顔は、それはもうどっろどろのはちみつのように甘く溶けていたのだ。
入り込む暖かいオレンジ色の西陽が彼を後ろから包み、その甘さをさらに助長しているようにも思える。はつみつ色の髪の毛一本ですら砂糖で出来ているのではないかと思うくらいに甘そうだった。
とにかく成瀬くんの存在自体が甘ったるい。甘すぎて痺れそうなる。
食べ物を含めそんなに甘いものには耐性がない私はとっさに彼の首の後ろに回していた腕を離して距離を取ろうとする。
しかし、今度は逆に上からがばりと抱きしめられて身動きが取れなくなってしまった。
「しょうがないでしょ。好きな人に好きって言われたら誰だってこんな顔になるから」
そう言って私の肩に自身の額を乗せた。降りてきた髪の毛が首筋に当たって、くすぐったいと云わんばかりに身を捩ると、背中に回っていた腕に力が入ってさらに脱出が不可能となる。
「す、好きだなんて私まだ言ってないもん」
「顔に書いてるよ。俺のことだぁい好き♡って」
そして「俺の特技ナメないでよ」と笑う。確かにマニアックな特技の持ち主だったと、つられるようにして私も笑ってしまった。



