【完】それは確かにはちみつの味だった。



「結構俺も一か八かの勝負に大きく出たつもりだけど、やっぱりちょっと不安なんだよね」

 そう言って眉を下げた彼を見て「あぁそうか」とその理由が分かった。
 
 成瀬くんも不安なのだろう。いつも全て分かっているような余裕な素振りをしているけれど、きっとそんな彼でも不安を感じていたのだろう。

 その不安を払拭したいが故に、ちゃんと形となった言葉を欲しているのだ。1秒でも早く、その答えを聞いて安心したいと。

 外見も中身も完璧な成瀬春も、ただの一人の人間であり、ただ一人の男だったのだ。

「ねぇ、ちょっとだけ腕離してよ。ちゃんと言うから」

 そう告げると彼は渋々と言った形で手ををようやく離してくれた。

 よく見たら、せっかくの整った綺麗な顔が自信と不安が混じった不思議な表情になっている。

 これが惚れた弱みなのか何なのか。そんな彼でさえも愛しく感じてしまう。

「ふふ、ちゃんと受け止めてね」
「え?」

 そして晴れて自由の身になった私は、そのまま体重を前にかけて成瀬くんに抱きついた。首に両腕を回して首元に顔を近づける。

 その瞬間微かに香る甘い匂いがとても心地良くて、太陽の光を浴びたお布団に包まれているような安心感が私の身体ごとまるっと包み込む。

「・・・」
「ふふっ」

 随分大胆な行動に出たなとは思う。でも彼も固まったまま動かないし、きっと驚いているのだろう。してやったりと、口元を緩めた。

 なんせやられっぱなしは嫌である。年上のプライドがここで発動する。さぞかし成瀬くんは今頃顔を赤くして照れているだろう、と。

 踏み台から降りた私は下から覗き込むようにして成瀬くんの顔を見ようと顔を上に向けた。