【完】それは確かにはちみつの味だった。



(あぁ・・・なるほど)

 これが、恋か。

 ストンと、その言葉が胸に降りてきた。

 「恋」のたった一文字の漢字に心がむず痒くてそわそわして落ち着かない。そしてちょっぴり泣きたくなるくらいに胸がいっぱいで苦しい。

 でも、なぜだろう。それがとても楽しくて、ずっとこの時間が続けばいいのにと願ってしまう。

 成瀬くんと出会った色づいた世界が、今度はきらきらと輝いて見える様になった。


「・・・あーだめだ可愛すぎてむり。連れて帰りたい。連れて帰っていい? いいよね?」
「私は小動物の部類じゃないんだけど」
「ちょっと、気にするとこ違うんじゃないの」

「この先大丈夫かなぁ」となぜか大きなため息を吐いていた。どうでもいいが、いい加減この手を離して自由の身にして欲しい。恥ずかしいのはもちろんだが、本気で暑くなってきた。

 そう思ったことをそのまま言ってみる。すぐに「いやだ」と断られた。解せない。
 しまいには離れようとする私に不満があるのか、まるで猫のように唸っては肩口に頭を擦り付けてくる。

「返事待てない。今すぐ聞かせて」
「いきなりへ、へんじって・・・意地悪」
「返事決まってるのに早く言ってくれない先輩の方がよっぽど意地悪だと思うけど」
「何で私の返事が決まってるって決めつけるの」

 少しの抵抗も秒の速さで「事実でしょ。ほら、早く言いなよ。あんまり焦らさないで」と敗北に終わる。
 タイプの話の下りでもそうだったが、この男は急か癖があるようだった。新しく発見した一面である。