【完】それは確かにはちみつの味だった。



「冗談言っているように聞こえる?」
「・・・それは、」 

 聞こえない。今まで見たことがないその真剣な眼差しに、その続きの言葉は喉の奥でつっかえた。澄んだブラウンの瞳の奥に滾るその熱量に目を合わせられなくなって視線を外すと、彼はその顔をいつもの様にへなりと崩しては「ふっ」と笑みをこぼす。

 そして。

「好きだよ」

 2度目の告白。

「えぇっと・・・その、って、ぅあ?!」

 それが本気の告白だと分かった瞬間、タイミング悪く踏み台から足を踏み外した私はバランスを崩してしまった。足がもつれて、頭から落っこちそうになる。傾く視界に思わずぎゅっと目を瞑った。

「今いい所なんだから頼むよ、ぴーちゃん先輩」

 すかさず成瀬くんは私の両脇に手を差し込み、そのまま支えるようにして抱えた。踏み台がなければ高い高い状態である。

 お陰様で倒れ込んで怪我をせずに済んだのは有り難いが、自然と正面切って向かい合う形になってしまった。

 成瀬くんの顔が、すぐ至近距離にある。この歳になって足を踏み外した恥ずかしさと、まるで彫刻品のように綺麗な顔に、私は頬を赤く染めた。

「・・・あ、ありがとう。助かった」

 しかし「もう大丈夫だよ」と身体を引こうとするが抱えられたままで離れることができない。きっと重いはずだ。

 なぜか成瀬くんは前のめりになっている私を支えたままその手を離す様子はない。

 線の細い華奢な人だと思っていたが、やっぱり男の子なんだと実感する。力を入れても全然ビクともしなかった。