気のせいだ、気のせいだ。どくどくと波を打ち始めた心臓を抑え込むように、心の中でそう呟いた。
そうだ、きっと最近恋愛小説を読み漁っていたせいだ。多分私の耳が勝手に「好きだよ」というフィクションでよく使われるセリフに都合良く変換されたのだと思い込む。
そう、都合良く。
足早に返却コーナーに向かって積み重なっていた十数冊の本を近くの本棚まで運ぶ。高い所は踏み台がないと難しいため、一番近くにあったものを引き寄せて、本を一冊ずつあるべき所に入れこんでいった。
その間も、ずっと視線を感じている。ひしひしと背中を通して伝わってくる。正直言って、もの凄くやり辛い。
(・・・気の迷いにもほどがあるだろう)
確かに好きな人がいるような口ぶりはあったが、それが私だなんて勘違いも甚だしい。
だって成瀬くんは自他共に認めるイケメンではないか。それに比べて平凡オブ平凡な私を好き?彼を蔑むつもりは毛頭ないがそれはあまりにも盲目すぎるだろう。
自分で言っていて悲しくなってくるが、私のどこを好きなる?愛想も無いし、可愛くも無いし、特別頭が良い訳でもない。成瀬くんは私のことを”表情が豊か”だというが、世間一般的にはそうでないことは分かっている。
どうしたって私は成瀬くんの隣に似合う女の子になんてなれしない。襲いかかってくるその現実が、ひどく悲しくて悔しくて苦しくなる。



