「・・・少し、寂しいかもしれないな」
そう言って、笑う。笑っていないと涙が出てきてしまうような気がした。
そんなキャラじゃなかったのにな、と心の中で自嘲する。下がっていく口角は無理矢理上げるしかない。
その間、成瀬くんは何も口を挟むことなく、ただ黙って、一点をぼーっと見つめていた。「世界が色鮮やかに見えたよ」なんてセリフが臭すぎて引かれたかもしれない、と私は彼のリアクションを待つように下を向く。
「ねぇ、ぴーちゃん先輩」
「何?あ、やっぱりセリフが臭かったかな?・・・いや、私も正直どうかと、」
「───好きだよ」
その瞬間、私の思考回路はフリーズした。
「っ・・・・へ?」
今彼は何と言った?
驚きの余り俯きかけていた顔をバッと勢いよく上げた時、丁度こちらを見ていた成瀬くんと目が合ってしまう。普通の人よりも色素が薄いブラウンの瞳に困惑した自分の間抜け顔が入り込んでいた。
(いやぁ、まさかね・・・)
聞き間違いでなければ、目の前の男は「好きだよ」と、確かに言った。
現実逃避をするように私は頭をぶんぶんと横に振り、妙に糖度の高くなったような気がするこの空気を断ち切ろうと試みる。が、それでもその言葉は頭の中でぐるぐると回って離れてくれない。
「・・・そ、それじゃあ休憩は終わりにして、そろそろ本の返却を・・・」
そして居た堪れなくなった私は逃げるように席を立った。慌てすぎて、テーブルに膝を思いっきりぶつける。痛い。でも、このまま彼と正面向かい合って会話を再開させるのは無理だ。絶対に無理だ。
だって、それじゃあ、彼が、私のことを好きだと言っているみたいじゃないか。



