【完】それは確かにはちみつの味だった。





「成瀬くんと出会ってから、世界が色鮮やかに見えたよ」


 桜は儚いからこそ美しく感じるものだった。2人で分けるパピコは青春の味がした。学業のお守りは持っているだけで力が湧いた。贈り物に喜ぶ人の姿を見て私も嬉しくなった。

 自分でも目が眩むくらいに、輝かしい日々だったと思う。

 ほとんど空白だった高校時代の思い出を埋めてくれたのは、紛れもなく成瀬春という男だった。


(・・・寂しい、な)


  当たり前の日常がやがて思い出に変わってしまう。

 いつか、此処で過ごした時間ですら忘れてしまう日がくるかもしれない。

 一度そう思ってしまったが最後。寂しい、その一言が募りに募って胸をキュッと締め付けた。息が苦しくなった。なんだかんだ私は彼と一緒に図書室で過ごす時間が好きだったのだと思う。今年も来年も一緒に過ごしたいと思うくらいに。
 
 変わっていくことが怖いと未来を恐れるのは、生まれて初めてだ。

「一緒に過ごしてくれて、ありがとう。凄く楽しかった」

 信じられないくらいにキラキラした毎日だっと、そう思う。

 小学校卒業の時も、中学校卒業の時も、別れの季節は”そういうものだ”と昔から割り切っていた気がする。だから「さよなら」なんだからしょうがない、そう言って涙を流すことなんてなかった。

 そんな薄情だった私が、寂しい、寂しいと今になって心が叫び始める。