【完】それは確かにはちみつの味だった。



「・・・そっかぁ、先輩卒業しちゃうのか」

 ぽつりと、そうしみじみと呟いた。

「うふふ、寂しい?」と冗談めかしに聞いてみる。彼は私以上に私の卒業の実感が湧いているのではないのだろうか。

 お世辞でも少し寂しいと思ってくれているのならば嬉しい。きっと彼にとっては暇潰しに付き合ってくれるレアキャラモブ女子がいなくなる程度の感覚かもしれないが。学校中を探したら1人くらい同じようなモブ女子がいるはずだから安心して欲しい。

 すると成瀬くんは眉をはの字に傾けて、薄く笑みを浮かべた。

「寂しいって言ったらどうする? 留年してくれる?」
「バカじゃないの。するわけないじゃん」

 何を言い出すかと思えばまさかの留年のお誘いだった。卒業が確定しているのに私にだ。もはや今から留年する方法があったらむしろ知りたいくらいである。

「図書室にふらっと行ったらさ、先輩がいるのが当たり前だと思っていたけど」

 来月の今頃はここにきてもぴーちゃん先輩はいないのか、そう彼は弱々しい口調で言葉を吐くように紡いだ。