【完】それは確かにはちみつの味だった。



「この際大学デビューしてみようかなぁ。いいと思わない?」

 ピアスとか開けて、成瀬くんみたいな明るい髪の毛に染めたりして、いっぱいオシャレして、バイトとサークルに行ったりして。

「どうかな?」と高揚感が高まった私は身を乗り出す体勢で尋ねてみる。


「俺と釣り合うために可愛くなってくれるの? それはそれでちょっと嬉しいけど」
「何言ってんの。ただ、そうしてみるとまた世界が違って見えるかもねってこと」


 オープンキャンパスに行った時に教えてもらったが、大学側が図書館でのアルバイトを雇っているらしい。

 仕事は今の図書委員の内容と大きくは変わらず、シフトは授業の空きコマの時間だけでも可能らしいのだ。お小遣い稼ぎがてら、ぜひ入学後はそのアルバイトに応募しようと思っている。
 図書室にいながらお金が入ってくるなんて、もはや最高としか言いようがない。


「大学デビューに成功したら、ぴーちゃん先輩モテモテになっちゃうじゃん」
「馬鹿ね、そう上手く行くわけないじゃん。今だって一生独身の未来しか見えないのに」


 それよりもまず友達作りに失敗しないようにしないと、と意気込む。そして「せめて愛想笑いの練習でもしておこうかな」とにっと左右の口角を上げてみる。多分気持ち悪い顔になっているけれど。

 その間、成瀬くんは私の変顔にも気を留めずに暗い顔をしていた。