【完】それは確かにはちみつの味だった。



 成瀬くんと恋愛の話をするのはなんだか新鮮だ。あまりそう言った類の話はしたことが無かった気がする。そう思うと自然と興味が湧いてきた。

「俺は表情が豊かな人が好きかな」

 少し間を置いた後、彼はそう答えた。それだけ?と言う私に首を縦に振る。

「えぇ、もっとないの? 美人の年上が良いとか、小柄で可愛い子が良いとかさ」

 さっきまでこの男は年上年下だとか、髪の毛の色だとか、具体的に外見の挙げていたはずだ。

 クラスメイトの男子勢なんて皆口を揃えて「顔が可愛い子」とか「清楚系で大人し目の子」とかタイプの女の子の話で盛り上がっていたのに。
 
 目の前の男は意外にも曖昧模糊な答えだった。

「あはは、世の中の男が全員そう思ってると思ってるんだ」

 彼は吹き出すように笑う。

「違うの?」
「うん、違う。全然違う」
「へぇ・・・そう」

 ここで恋愛経験値の低さがもろに出てしまった。

 今まで恋愛に関することは小説の中ででしか触れ合ってこなかった弊害だろうか。なんだか少々世間一般の人たちと常識がズレている気がしてならない。振り返した話題がまさか自分の墓穴を掘ることになろうとは。

 その件については後で考えることにして、とにかく分かったことは成瀬くんのタイプは「表情が豊かな人」だということ。

「まぁ・・・私とは正反対の人だね」

 特技がポーカーフェイスの私には到底無理だろう。