【完】それは確かにはちみつの味だった。


「あぁ、本が好きな人っていう答え以外でね」
「恋愛初心者にはハードルの高い質問じゃないかな」
「年下が良いとか、髪の毛が明るい人とか、甘党が良いとかない?」

 そしてものの見事に“青春”を犠牲にして本に没頭していた私。

 高校3年間、結局彼氏どころか好きな人ですら出来なかった。

 人間関係が決して穏便だとは言えなかった私が図書室にいるのに本を読まずにお喋りをするようになったのもここ最近の話である。

 成瀬くんが図書室に出入りするようになってからだ。

 人の懐に入るのが上手な彼だから、私はいつも口車に乗せられてペラペラと面白くもない無駄話をしてしまう。

「強いていうなら、」 

 ただ、外見とか年齢差とかは無しにして漠然とする回答が許されるのならば、1つだけ思い浮かぶことがある。

「おばあちゃんやおじいちゃんになっても、ずっと仲良く笑える人が良いな」

 最初、私に本を貸してくれたのは祖母だった。
 
 読書家だった祖父母の家には大量の本が並んでいて、幼い頃から遊びに行っては片っ端から小説を読み漁っていた。内容が難しい話は理解できなかったが、読めない漢字は教えてもらいながらも読み進めた記憶はある。

 早い話、私の本好きは祖父母仕込みであった。