「少し回ってみてもいいかしら」
「ええ、ご自由にどうぞ」


 先に進んでいく宏海さんの後をついていく。

 結構な頻度で図書室に足を運んだことのある私は彼女と別れていつもの場所に向かった。
 奥の方に進んでいくと、何年も取り出されていないであろう埃を被った本が陳列している本棚があるのだ。今日も相変わらず空気が埃っぽい。

 そして、日当たりの良い窓際には一脚のパイプ椅子がある。躊躇なく座った私に彼女は「凄く使い古された椅子ね」と声を掛けて来た。

「今の美術部の顧問はよくこの椅子に座って暇潰しだ〜とか言ってだらけているんですよ」

 元々人の出入りが激しくないこの図書室。

 私が何度も足を運んだことがあるその理由はその顧問の先生を迎えにいくためである。部活の事で質問に行こうにも藤村先生が職員室にいることはほとんどない。

 大抵図書室か若しくは美術準備室でダラダラしている事が多いのだ。サボりですかと尋ねると、毎回「先生にはいろいろあるんだよ」と返ってくる。そして「いろいろあってもサボる理由にはならないですよ」と私が返すと、「お前はしっかりしてんな」と重々しく腰を上げてくれる。これがいつものパターン。

 そして先生を探しにいくのは部長である私だった。なんでも他の部員が探しに行ってもなかなか見つけられないらしい。図書室にいるよと教えてあげても「居ませんでした」と戻って来てしまうのだ。

 代わりに私が行くとなぜかその時は図書室にいる。この前藤村先生にも「お前はいつも俺を見つけるな」と苦い顔をされた。