「そうね・・・私、狙っていた賞に落選したことがあったの。自信作だったからショックで泣いちゃったんだけど、慰めようとしてくれたのかあの人は抱きしめてくれて」

 知り合ってさほど時間も経ってない私に、宏海さんは話してくれた。去年私も同じように狙っていた賞が落選したことがあって、「その気持ちすっごく分かります」と似た経験を告げる。

 私は強がって泣かなかったけれど、数週間は筆も取れないくらいに落ち込んでいた。
 結局フジサク先生の「僕はその絵好きだけどな」のひと言で救われて、すんなり立ち直れたけれど。

「優しい人だったんですね、その人」
「ええ。抱きしめてくれた腕の力が思いの外強くて・・・男の人なんだなぁって
そこから意識しだしたのかも」

 そう言って恥ずかしそうに宏海さんは笑った。その姿がとても可愛らしくて私もつられて頬を緩める。

 私は高校3年生になってもなおその様な甘酸っぱい恋愛はしてこなかったからか、恋愛トークはとても新鮮だった。話を振った私の方がくすぐったくなってきてしまう。

「あ・・・ここって」

 2階の奥の部屋に辿り着いた時、ふと彼女の動きが止まった。

「図書室、ですね。入ってみましょう」

 何かを思い出したように立ち止まったその場所は図書室。

 何か分かるかもしれない、と鍵が開いたままの図書室に足を踏み入れてみる。

 夏休みは18時までは受験勉強のために開放されているのだ。幸いなことに司書の先生も誰もいなかった。