綺麗な女性の幽霊───小坂宏海さんと並んで校内を歩き回り始めた。

 ずっと美術室にいるよりも歩き回った方が何か思い出すかもしれないという宏海さんの提案である。

 なんせ彼女の想い人を探すとは言っても何の手がかりもないのだ。今の時点で分かることと言えば、その人は美術部の先輩。たったそれだけ。

(引き受けたのは無謀だったかなぁ)

 少し前を行く彼女に見えないようにため息をつく。他の人から見たら私が1人で校舎をうろつき回っているように見えるのだろうか。どう思われようともあと半年で卒業するんだからどうでもいいか。

 自分の体裁よりも、あと1時間で本当に最期のお願いを叶えてあげることはできるのだろうか。その不安の方が今は大きかった。

「何だか懐かしいわね」

 楽しそうにキョロキョロと校内を見回している彼女に問いかけてみる。

「・・・宏海さんは、何でその人を好きになったんだすか?」

 幽霊になってもあんなに綺麗な彼女。同級生は放っておかなかったに違いない。

 そんな彼女が好きになった人は一体どんな人なのだろう、選り取り見取りであろう宏海さんが選んだ人はどんな素敵な人なのだろうか。

 自然に興味が湧いてきた私は彼女に聞いてみた。