「先生たちを引き離すなんて、何で神様はそんな意地悪をするんですかね」
宏海さんも先生もお手本のような善人なのに、どうして神様は2人に困難な試練を与えるのだろう。
どんなに徳を積んで生きていても結局は神様の手のひらの上で踊らされているのだと思うと苛立ちさえおぼえる。
「そうだね、神様は理不尽で意地悪だ。忘れようと決めた僕の目の前にどんどん宏海に似ていく小泉が現れるんだから」
「え?・・・いや、似てないと思いますけど」
私は全力で首を横に振る。
宏海さんも「私たち似た者同士ね」なんて言っていたけれど、私としてはとんでもなくおこがましい話だ。それに思いつく共通点なんて「美術部部長」くらいで・・・あぁ、サボっている先生を迎えに行く役目は一緒かもしれない。
でもそれくらいで彼女みたいに綺麗じゃないし、似ているわけではないのだ。月とスッポンという言葉がこれほど似合う状況は生きてきた中で初めてだ。
「私だって宏海さんになれるんだったらそりゃなりた、・・・い」
ですけど。その言葉は発せられることはなかった。
「先生?」
「お前は絶対に死んでくれるなよ、お願いだから」
頼むから、そう続けた先生は見ていられないくらいに悲痛な表情をしていた。
考えるよりも先に足が動く。私の両足は前に前にと進んでいく。
そして、気付いた時には私は先生を抱きしめていた。