きっと先生は、毎年、毎年、この日になるとその絵を眺めながら己の過去を呪ったのだろう。誰かに責められたかったのだ。恨まれたかったのだ。
 でも先生は何も悪いことをしていないから誰も責めることをしない。だから自分で自分の行動を恨んできたのだ。そうすることでしか正気を保てなかったのかもしれない。


「彼女の残像に導かれるままに結局先生になって戻ってきたんだ」

「重い男だよね」と空回ったような笑いを含んだ声で捨て吐く。

 宏海さんも自分が彼の心に存在する限り、先生は前に進めないと、そう分かっていた。だから彼女は死んでもなお、最期の許された時間を先生のために使いたかったのだ。

その戒めを解くために。


「・・・僕は宏海の言う通り前を向かないといけない、分かってはいたけど出来なかったんだ」
「前を向いたとしても、別に忘れなくてもいいんじゃないですか?」


 宏海さんは自分のことを忘れて欲しいと言っていたけれど、それは違う。前を向くためには過去の思い出が必要不可欠。過去を生かすからこそ見えてくる未来だってあるはずだ。