ぽっかりと心に空いた穴は悲しさで溢れていく。宏海さんは好きだった人の名前と顔を思い出せた。藤村先生に最期の別れを告げることが出来た。私は彼女の願いを叶えることが出来た。
 
 きっとこれ以上に良い終わり方はない。喜ばしいことなのに、どうも歯痒くて堪らない。

 自分の身体を取り戻してどっと体力的に疲弊していたが、数分経ったところで調子も少しづつ戻ってくる。しかし、涙だけは止めどなく溢れるばかりで胸はいっぱいいっぱいだった。

 同じように暫くその場から動かずに立ったままに先生に尋ねる。


「・・・先生も、ずっと宏海さんが好きだったんですか」
「うん。初めて図書室で部活サボってる僕を迎えに来てくれた時、その時からずっと」


「どうして小泉も泣いているんだ」と先生は静かに笑う。私は上擦った声で「本当ですよね」と涙を制服の袖で拭った。私よりも先生の方が泣きたいだろうに。


「7年前の今日、この絵を描いたんだ。その帰りに告白しようと思っていたのに、小っ恥ずかしくなって言えなくてさ。別れた道の後に彼女は車に轢かれて死んでしまった」


 ずっと後悔していた。あの時「好き」だと言えていたら少しは彼女の人生は変わっていたかもしれないと。そう言いながら先生は絵を柔らかい手つきで撫でる。