「あら、なんで貴方が泣くの?」
「だって・・・、」
「・・・そうね、じゃあ最後のお願いをしていいかしら」
「私にできることなら、何でも・・・!」

 必死に私は取り乱しながらも首を縦に振った。

 彼女は穏やかな表情で私の顔を包むようにして手を上げる。


「少しの間、身体を貸して貰うわね」


 宏海さんがそう言った瞬間───私の意識とは無関係に体が動いた。

自分の身体なのに自分のものでないような、そんな違和感がある。

今、私の身体は宏海さんが乗り移っているのだとすぐに理解できた。


「・・・久しぶり、サク君」
「宏海、か?」


人が変わったかのような私の様子に藤村先生はごくりと息を飲む。


「久しぶり。まさか学校の先生になってるなんて」
「・・・どうし、て」
「最後に言い残したことがあって、幽霊になちゃった」

 宏海さんは先生の元へ歩み寄っていく。


「───ずっと好きだったよ、サク君のこと」

 そして涙を流しながら、彼女は藤村先生を抱きしめた。