「へえ?それで、あの男と海行ってきたんだ」
あれからしばらくして、私の家の前で下ろしてもらうと、マンションのホールに会長がいた。
腕を組んで、壁によし掛る彼は様になっている。
「は、はい…」
「…依茉、俺に隠してることあるよね」
「え?」
「ハヤトクンだけじゃなくてさ。別の男もいるよね」
とりあえず開けてよ、と言うので、オートロックを解除して自分の部屋へ帰る。
その間ずっと会長からの視線が痛くて、どうしても私はそっちを向けなかった。
リビングに入ってカバンを下ろすと、会長がソファーに私を乱雑に座らせ、私の両肩を掴む。
「言えよ、隠してること全部。」
「ちょっと待ってください、隠してることなんて」
「イツキ。お前が寝てる間にずっと呼んでた男」
"樹"。
その名前で思い当たるのはただ1人、兄。
早見樹。
私の、ずっと想い続けている人だ。
「い、つき、は…」
ドクン。
心臓がまるで耳の横にあるかのように、鼓動が聞こえる。
私は、会長に、伝えられるだろうか?
"依茉ちゃんは、素直に生きてほしいな"



