キミを描きたくて

温かい。
抵抗感なんて湧かなかった。

ああ、こんな現場を誰かが見れば、浮気だと言うだろう。


「強がりはやめよう。…夏休み、きっともっと孤独を感じることになると思う」

「……」

「大丈夫だよ。そんな時は、また絵を描きにきて。一緒にお出かけだって行こう。…僕のこと、利用していいから」


"利用"。
彼は私がそんなことをしないと知っていて、そう言っているのだろう。

…いや、実はずっと利用していたのかもしれない。
都合よく、私の話だけを聞いてくれる彼を。


「依茉ちゃんが苦しむくらいなら、一緒に死んでいいって思うくらい…僕は、依茉ちゃんが好きだよ」

「り、よう…」

「あの日依茉ちゃんに出会ってから、僕は依茉ちゃんの為だけに生きてるようなものなんだよ」


私を抱く腕をゆるめ、私の顔を見つめる。
いつかの兄も、そうやって私に言った。


「見てられないんだ、依茉ちゃんの辛そうな顔」

"もう俺見てられないよ、依茉が責められてるの"


樹を思い出して涙が流れる。
どうしても兄を思い出してしまって、思い切り隼人くんに抱きついて、涙を誤魔化した。