キミを描きたくて

「僕、毎日依茉ちゃんの為にあそこで働いてる。どんなに天気が悪くても。」

「私の、ため…」

「ねえ依茉ちゃん。本当に、あんな男でいいの?」


真意は伝わった。
"あんな出会いたての男より僕を選べ"。
"ずっとずっと見ていた、僕を選べ"。

きっと、いや絶対にそうだ。
でも私は、どちらかなんて選べる器はなかった。


「あ…も、もうすぐ海見えますね」

「…そうだね。依茉ちゃん、海好き?」

「はい。音も波も、波に揺れる光も、全部」


話題をそらす。
すぐに彼は同じく切りかえてくれた。

決めろ、なんてすぐに迫るような人じゃないことくらい私は知っている。
そう、知っているのに、答えてあげられない。


「もう夕方だし、風も心地よさそうだね。降りよっか」


駐車スペースに車を停めて、外に出る。
確かに隼人くんの言う通りだった。

…たまには、気分転換もいい。

夕日に照らされる波、砂浜で母親と絵を描く子供。
私も、あんな風になれたらよかったのに。

そんなネガティブな思考に襲われて、急に視界が真っ暗になる。

なんで、せっかく隼人くんが連れてきてくれたのに、こんな時に、こんな、


「依茉ちゃん、大丈夫だよ」


そっと、隼人くんが私を抱きしめてくれた。