キミを描きたくて

「…ベランダ、ですか?」

「9階だし、毎年見えてるんでしょ?じゃあ今年は俺とベランダで見ようよ」


確定ね、そう言ってニヤッと笑う。
横暴さは、全く変わらない。

…まあ、いいか。

人と見る花火も、また見え方が違うかもしれない。

会長の整った横顔には、花火の色とりどりの光がよく映えるだろう。


「依茉は、なんで絵が好きになったの?」

「…さあ、私にもわかりません」


樹に手を伸ばしたかった。
顔のよく似た兄に、私は近づきたかった。

でも絵を描くことで母親には恨まれているし、父親は無関心。

…兄も、届きやしないところに行った。


「別に、分からなくていいとも感じます」

「それは、なんで?」

「…わかったところで、私には絵しかないことに変わりはありません」


ふうん、とうなる会長。
喉仏が動いて、彼が飲み込んだのがわかる。


「俺は、いるとは思われてないんだね」

「言ってたじゃないですか、女避けだって」


そういうとため息をつく。
私には訳が分からなかった。

女避けの名目で強制的に彼女にしたのだ。


「依茉って、ホント鈍感だよね」


ご馳走様、と彼は席を立った。