キミを描きたくて

驚いたように目を見開く。
今は目の前にいるこの男が、敵としてしか見なせなかった。

私とお兄ちゃんを知らないくせに、お兄ちゃんがどれだけ素晴らしかったかも、素敵だったかも…知るはずないくせに。

私の中に生き続けているお兄ちゃんを殺そうとするな。
私の中のお兄ちゃんを塗りつぶしていくな。

私の心を、珈琲画のように染めようとするな。


「…ごめん、ごめんね。そう怒らせたいつもりじゃなかったんだ」


少し踏み込みすぎてしまったね、そう困ったように笑う。
謝罪した彼を見て、私も大人気なく怒りを見せる訳には行かなかった。



「…いえ、私も、言いすぎました」



絞り出したような声だった。
もう今日は、彼のことを描けないと思った。

彼もうっすらそれを察したかのように荷物をまとめる。



「また日を改めよう。本当にごめんね、すぐ連絡するから」



へなへなとソファーに座り込む私の頭をそっと撫でて、玄関から出ていく。
玄関のドアの閉まる音と同時に、私はソファーに倒れ込んだ。