キミを描きたくて

人が通ることが多い昇降口。
私はそこで待機していた。

誰か、描きたいと思える人...。


「きゃっ、紫月くーん!」


...しづ...?

きゃっきゃと騒ぐ女子に囲まれて、顔の整った人が出てきた。


...見つけた、描きたい人。

そこで早速声をかけてみようと思ったのだが、女子に囲まれすぎて話しかけられない。


そんなとき、ずっと笑っていた彼の目が私を捉えた。


「キミは...初めましてだね?」

「えっ、あっ、はい」

「...僕に何か用事?」

「お願いごとが、ありまして...」


そういうと、周りの女子たちが何様?とか、紫月くん独り占めしないでとか騒いでいるのが聞こえる。

ざ、雑音だ、雑音...
頼むこと、頼むことだけ考えるんだ。


「人物画、描きたくてですね...」


「手伝って貰えませんか...?」


そういうと、紫月と呼ばれた人は目を細める。
どこか怖い。


「人物画、ねぇ...悪いけど、キミには描かれたくないかな」

「そ、そうですか...,」


私には、描かれたくない...
そりゃそうだ。

大した実績もなければ、元々抽象画専門。

人物画なんて片手程度しか描いたことがない...


「じ、時間さいちゃってごめんなさい、失礼します」