キミを描きたくて

「...よしっ」


キャンバスを設置して、何を書こうかなと考える。
...どうしようか。

最近は美術部で風景画を完成させ、抽象画に手をつけ始めている。

人物画を描きたいが、被写体なんて居ない。


「コーヒー持ってきたよ」

「ああ...ありがとうございます」

「ふふ、忘れてたでしょ?」

「そ、そんなことっ...!」


焦らなくていいよ、そうコトンとコーヒーカップを置く。

牛乳と砂糖がたっぷり入った、甘めのコーヒー。

対する彼はブラック。さすがだ。


「最近、なんかあった?あんまり来なかったけど」

「...実は、彼氏ができまして...」

「......は?」


眉間に皺を寄せる隼人くん。
どこか機嫌が悪そうで、慌てて言葉を紡ぐ。


「そ、その、女よけ?みたいな感じで、強制的に...」

「なにそれ、依茉ちゃんが?」

「はい...そうなんです」


ふーん、なんて低い声で言う隼人くん。
どこか怖い、でもそれをわざわざ聞く気は出ない。

長い足を椅子の上で組んで、目を細めて、コーヒーを啜っている。

...絵を描きたいほどに、いい構図だ。