キミを描きたくて

しばらくすると、ドンと大きな音が聞こえて花火が始まった。

パラパラと音を立てて散って、また上がって、散って。

その火花はとても綺麗で、また頭の中のシャッターを下ろす。
この景色を描きたい、そう思ってスマホで写真も撮った。


隼人くんの横顔は花火に照らされていて、とても綺麗だ。

こんな美しい題材の横にいることが、恥にも感じてしまうほど。


「綺麗だね、花火」

「そうだね」

「楽しいよ、依茉ちゃんと見れて」


僕夏祭り苦手なんだ、なんて苦笑いする。
私だって苦手だ。

人が密集するところは人の欲が詰まっていて、絵に描くにはどす黒すぎるのだ。

だから、あまり好きじゃない。

感情を描く私にとっては、あまり好きとは言えない。


「でも、こうしてこれてよかった」


彼が私の手に手を重ねる。
それはじんわりと私の手を温めて、暑くさせる。

でも、それでも私はその手をどけることはしなかった。

私の心が誰に向いているのか、私に分からせようとしてくる。

けれども私はそれに必死に抵抗する。
わかりたくなどないから。

それでいい、何も知らずに絵を描いて、それだけでいいのだ。